その橋を渡るのか 舞台「Р.Р.Р.(罪と罰)」鑑賞

https://m.youtube.com/watch?v=BxHW8ZzGKAI&t=2s

https://m.youtube.com/watch?v=Af-ux3SqVd0


Р.Р.Р.(エル・エル・エル)は、ロジオン・ロマーノヴィッチ・ラスコーリニコフ、「罪と罰」主人公のイニシャルだ。


モスクワ留学中、チケットまで買っていたのに中止になって見られなかった舞台をyoutubeで鑑賞(違法アップロードではない)。


原作をかなり忠実に再現している。

ラスコーリニコフは陰鬱なイケメンで、ラズミーヒンはいいやつオーラが全身から漂っていて、ドゥーニャは洗練された美人で、ソーニャはたたずまいからして聖女。よくここまで原作通りの人を揃えたなと思った。


もちろん演技も素晴らしい。ラスコーリニコフが姉妹を殺した後、証拠隠滅をするときの緊張感。老婆のアパートに人が来た瞬間なんて、観てるこっちの心拍数も上がった。


ソーニャはラスコーリニコフに惹かれ、彼が殺人者だと知って拒絶するも、受け入れそうになってしまう。その葛藤がとても人間的で、そうだよ人間自分の道から踏み外しそうになることもあるよ…と思った。家族のために身体を売り始めたときよりも、ソーニャが葛藤して、揺らいだ瞬間かもしれない。


圧巻だったのはスヴィドリガイロフ。ドゥーニャに迫る場面は原作よりもっと厭らしく、生々しくてぞっとした。でも同時に、そんなふうにしかドゥーニャを愛せない哀しさも伝わってきた。決して彼女が自分を愛してくれないと悟り、絶望する瞬間には哀れみを覚えた。


演出は結構派手で、暗めの舞台で照明を駆使している。全体的に青っぽい色合いだったが、老姉妹殺し、ソーニャとの「対決」など決定的なシーンでは赤色が使われている。


ラスコーリニコフとソーニャは初対面から強く惹かれ合う設定になっていた。2週間でシベリアまで一緒に行く仲になる原作の展開はたしかに少し無理があったが、舞台ではその部分の強引さが減っている。


舞台には常に橋が架けられていて、場面転換では橋も動いて角度や高さが変わる。「罪と罰 преступление и наказание」はпреступить(踏み越える)がテーマの小説だ。きっと、殺人者の「あちら側」と、人の道で生きる「こちら側」をつなぐ橋。ラスコーリニコフは作中ずっと、その橋を行ったり来たりし続けて葛藤する。