NHKの「蜘蛛の糸」 または幼少期のトラウマ

人間誰しも、子どもの頃目にしてトラウマになったものはあるだろう。

私は人一倍どころか人五倍くらい怖がりだったので、そうしたものも多い方だと思う。

最たるものが、NHK教育で放送された「蜘蛛の糸」の人形劇だ。

赤っぽい不気味な画面とストーリーの残酷さに、5歳だった私は震え上がった。

そしてそれ以降、地獄と死を連想するもの全てに恐怖を感じるようになった。

今でも思う。NHK教育で一体なぜあそこまで怖いものを流したのかと。

 

やはりNHK教育の「にほんごであそぼ」で地獄の歌が流れていたことがあった(歌詞も曲も、今でも完璧に覚えている)。その度に私は「こわいこわい」と母にしがみついて泣きじゃくっていた。母は困惑しただろう。

 

毎週見ていた「かいけつゾロリ」シリーズも、「じごくりょこう」の回だけは怖くて見られなかった。コメディシリーズなのに。

 

風呂に入るときは、よせばいいのに床が真っ二つに裂けて地獄に引き摺り込まれるところを想像して怯えた。自分で想像したイメージに自分が怯えてどうする。

 

足利事件や松本サリン事件の冤罪を知ったときは、自分が冤罪をかけられて死刑にされて地獄に連れて行かれるところを想像してべそをかいた。だから自分の想像に怯えるのはやめろ。

 

6くらいには、死や地獄という単語に異常な反応をすることは自然となくなった。成長すればおさまるものだったのだろうが、それにしても「蜘蛛の糸」のトラウマは約5年間続いたのだ。

恐怖とはいえ、人間の心をこれほど強く揺さぶれるのは芥川もNHKも大したものだと思う。

 

ちなみに大学生になり、芥川龍之介にはまって「歯車」や「影」、さらには「地獄変」などは繰り返し読んだが、どうしても「蜘蛛の糸」だけは読み返す気になれない。